9600円のステーキ弁当がなぜ売れたのか?

2012年秋に大丸東京店が増床オープンした時、地下のデパ地下の目玉商品の一つがミート矢澤の出店でした。もともと、五反田のお店で人気だったハンバーグをメインにしたお弁当のお店を出店していただきました。
その時のコンセプトはお客様の五感に訴える店づくりでした。いわゆる店内厨房で目の前で調理をすることで、視覚、嗅覚、熱、音、雰囲気などを感じてもらえるような仕掛けをしました。
特にお肉の細道と名付けた場所には有名な叙々苑にも出店してもらいました。

その中でミート矢澤の目玉弁当が9600円のステーキ弁当でした。みなさん、弁当に1万円近くも出します??
出しませんよね、普通。でもこれがよく売れたんです。確かに一番人気はハンバーグ弁当1600円でした。でもステーキ弁当も1日20食近く売れていたんじゃないかな。
なんで売れたんでしょう?確かにテレビでも取り上げられましたし、話題ということで買っていった人も多かったと思います。
私は大丸東京店のデパ地下の弁当売り場だからこそ売れたんだと思います。事実、他の百貨店でこんな高級な弁当は売っていませんし、売っても売れないでしょう。
では、なぜ東京店のデパ地下だと売れるのでしょう?

答えは多くの新幹線の乗り場に近いからだと思った人が多いでしょう。そうです、半分は当たりです。でもだとすると品川駅でも売れるんではないですか?東北新幹線だと大宮駅でも売れるでしょうね。
でも売れません。すると、みなさん、いや、乗降客数の数が違うんだよっていうかも知れません。
確かにそれもあります。

私の分析は、東京店のデパ地下の弁当売り場はブランド化しており、ここで買う弁当はうまいというイメージを刷り込まれた人が相当数いて、そのメインは東海道新幹線のビジネス客だということです。
店長している時に良く聞いた話は、電通などでは新入社員の時に出張で大阪に行くときは必ず大丸の地下で弁当を買ってから新幹線に行くように。決してキオスクで弁当は買うなと、教えられたそうです。
今では東京駅の地下も綺麗になり、相当追い上げられていますので、そのブランド力は陰ってきたかもしれませんが。。

でも、それだからと言って、9600円の弁当が売れる理由にはなりませんよね。でもここからがポイントなんです。
大阪に出張で行く、ビジネスマンが弁当買う時の気分ってどんな感じでしょう?なんとなく、ハレの気分になってるんですよね。今は2時間半ですが、それでもこの2時間半をゆっくりと過ごしたい、ちょっと特別な気分を味わいたいと思う人が結構いらっしゃるんです。そういう時によし、今日はちょっと贅沢しようとなるんです。
だから昔から、3000円前後のうなぎ弁当はよく売れました。またシニアの方には3000円前後の握り寿司が売れるんです。
でもこのステーキ弁当は9600円、これまでの高級弁当の3倍の値段です。なかなか手は出ないですよね。
でもこう考えてください。ステーキ屋さんに行って、美味しいステーキを食べたらいくらになります?1万円はしますよね。でもなかなかステーキ屋さんに一人では行かないでしょ。しかも、このステーキ弁当のステーキはたっぷり入っていて、しかも注文してから焼くので出来立てが食べれる。
どうです、ハレのこの機会に飲みに行ったと思って、食べてみようかって気になりません。この気分をアゲアゲにできるのは東京駅ならではなんです。伊豆とかに旅行に行くグループなんか見ていると、すごい感じました。
これが一つのメインターゲットです。

次のターゲットはギフト需要なんです。
例えば、東京駅の周りのオフィスビルの人たちも結構昼のランチでお弁当を買ってくれます。でもデイリーユースでこの弁当は売れません。ハレの弁当ってなんでしょう?そうお誕生日プレゼントになりません?また結構ニーズとしてあるのが、退職などの記念品です。こういうのも東京駅にあるデパ地下ならではですね。

最後に家族へのハレのお土産です。家族の記念にこのステーキ弁当を買って、家で親子4人で分けながら食べるそうなんです。これも普通なら、肉屋さんでステーキ買って焼けばいいんじゃないのってことですが、これもハレの気分を味わう、つまり、絶対普通なら買わない9600円の弁当を食べるというハレの感覚が大切なんです。

デパ地下の強みはハレの気分を味わえること。そして、来られるお客様のニーズ、ウオンツに合わせて、少し冒険、チャレンジをしてみたくなるような仕掛けづくりをして、日常の中に非日常をうまく取り入れてもらうことが成功の秘訣です。
東京駅ならではの立地、来られるお客様の特徴を生かしたからこそ、成立した9600円のステーキ弁当です。
私、東京店長4年ちょっとやりましたけど、9600円弁当は1回しか食べれてません(悲)しかも自腹です、当然。
個人的には1600円のハンバーグ弁当の方が完成度は高いと思います。これは結構食べてます!
ぜひ食べたことない人は東京駅に行ったときに買ってください!
http://kuroge-wagyu.com/my/daimaru/daimaru.html
ちなみに値段は今、ちょっと値上がりしてます。悪しからず。。。

“9600円のステーキ弁当がなぜ売れたのか?” への3件の返信

  1. 大変勉強になりました。そういう事が出来るの百貨店であり、そういう事が出来ない百貨店は淘汰される。シズル感が大切、という話も、まさにそう思います。
    ステーキ弁当は今度食べてみます。ありがとうございました。

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