シリーズ#08 コトラーのリテール4.0を読み解く

アフターコロナに生き残る飲食店レストランはどんな店??

先日、いつも食べに行く鎌倉にある魚割烹の大将と一緒に家の近くの真鶴港から釣り船に乗って、13時から魚釣りに出かけた。私が釣り船に乗ったのは40年以上も前なので、船酔いするのではないか、釣りの用意はどうすれば良いか、いろいろとわからない事だらけであった。しかし、もう1人常連の友人のアドバイスもあり、無事に楽しく、釣りが出来た。しかもなかなか形の良いメジナを2匹も釣る事ができた。いやあ大将、友人などのおかげで感動的な体験となった。


船から下船したのが、18時、そして私の家に帰ったのが18時15分、それから大将が私の釣ったメジナやサバ、アジなど釣れた魚を刺身、煮付け、塩焼きにあっという間に調理してくれた。そして19時には3人でビールを飲みながら食べることができた。味はもちろん、間違いなく、美味い。何故なら自分で釣ったからである。その後20時すぎには2人は家路に着き、私は家で1人余韻を楽しみながら、もう一杯祝杯をあげた。
私の友人は数日後に鎌倉のお店に行くことになっており、彼が釣った魚はその日に提供されることになっている。もちろん、彼は行くのがとても待ち遠しく、ワクワク感いっぱいである。

この魚割烹では、大将が自分で釣った魚だけを使い、料理を提供している。それを楽しみにくるお客様が多い。そして常連になると、私のように仕入れで釣りに行く時に一緒に連れて行ってくれたりする。彼にとって釣りは遊びでもあり、仕入れなのだ。今回は私の家が港からすぐであったので、スペシャルサービス(家で調理サービス)となった訳である。

リテール4.0では、これからの小売業は「目的地であれ」という原則を紹介している。この意味はもはや、小売店は単に買い物をする場では成立しない。いくらでも、ほかに買える場所はあるし、店舗にいかずとも、ネットでも買うことは出来るからである。
販売拠点は経験拠点であり、消費者にとって行かなくてはならない場所から行きたい場所になるのだと。
よって購買するということよりも、そこでの購買に伴う価値をどうつけるかが大切だと述べている。
まさに今日紹介した小料理店は行きたい場所になっている。船でどんなことがあったのかをまた大将と共有したい、仲間にも伝えたい。知らないお客さんに自分が釣った魚を食べてもらい自慢したいなどいろんなことをお店でやりたいのである。

もともと飲食店は店に来て飲食して初めて、商売が成立するのであるから、目的地である。しかし、今日紹介した釣り体験プラスお店での食事は、目的地を単に食事をする場ではなく、それを超えた経験を共有する、もしくは他のお客さまに自慢出来る場と変化させている。


こう考えると、飲食店はもっとチャンスがあるのではないかと。最終的には店を起点にした体験共有、感動共有の場になるが、店で提供される魚を取れたその日に産地からオンラインで販売したりすることで、さらにお客様にワクワク感を提供できる。お酒でも酒蔵に行ったときには、できるかもしれないし、他の食材でも仕入れのときに一緒にお客様にもオンラインで買えるようにすることもできる。

しかし、そういう販売サービスを提供出来ているのかといえば、まだまだ飲食店は出来ていない。確かに、今のコロナで飲食店はデリバリー、テイクアウト、宅配などのサービスを進めている。しかしこのサービスは店舗に来れない代わりの苦肉の策である。決して店舗でのワクワク感を共有は出来ていない。
私が提案したいのは、店舗に来ないでも味わえるお店の味を売るのではなく、店舗にもっと着たくなるサービスの提供である。飲食店の店舗を一つのコミュニティを考えると、そのコミュニティを構成するメンバーがさらにワクワクするような体験、サービスを付加することで、ますます店舗の魅力がアップするのだ。その中に物販の販売もあるのではないかと。例えば、顧客と一緒にワインを買うことで量を増やし、仕入れコストを下げる。すると顧客が買うワインの値段も下がる。店で提供する単価も下がる。一石二鳥ではないか。今やワインの値段はアプリでいくらでも知ることは可能だから、別に顧客に仕入れコストを知られても問題ないはずだ。こういうコミュニティをどう醸成するかがこれからのポイントではないだろうか。

一方で百貨店のような小売店舗は飲食店の正反対ではないかと、私は考える。
小売店舗では商品を買って、家に持って帰ってもらうことばかりを気にしている。
モノ消費からコト消費へと言い出してもう30年になるが、あまり変わっていない。
販売した商品を使った消費体験の共有を顧客とはなかなか出来ていないのが現実だ。
例えば、婦人服売り場でジャケットの販売をするときには必ず、使用目的をお尋ねする。もし旅行ならそれに合わせた提案をしていく。そして販売が成立するとそれで終了なのである。
そのジャケットを着てどんな旅先でどんな体験があったのかを共有することが店舗において、組織的には出来ていない。もし常連のお客様とのネットワークがあれば、その仲間の中で、共有もできる。それが出来れば、みんながワクワクする場に売場が変化するのである。みんな、どんなことがあったかを話に売場に来るのだ。ジャケットを売るのではなく、旅行体験のお手伝いをするのがビジネスであると小売業者は考えなければいけない。


意外にこれは今でも地方の百貨店の店頭では行われている。コミュニティまで出来ているかは別だが、顧客は普段の話相手として販売員を捉えているのである。しかしそれも効率化の波に消えようとしているのが現実だ。

このように見てくると、小売店舗は飲食店でもファッション売り場でも、やはり体験を提供しなければいけないということになる。それが顧客にとって、ワオと思えるようなものでなければ感動体験にはならない。
今回の私の釣り体験は釣る楽しさだけでなく、それを調理する、味わう、そしてその全ての体験を販売する側と一緒に共有することで感動を生み出すのである。
ウオルマート創業者、サムウオルトンの名言、「お客様の期待を超える」ことをすれば必ず顧客は帰ってくるのである。

これからの飲食店は単にお店で料理、お酒を提供するのではなく、その店で体験できるものをテーマにしたコミュニティを作り、そしてそのコミュニティが中心となり、店主と一緒にそのお店をさらに感動できる場に作り変えていくことが、アフターコロナの生きる道ではないだろうか。
それにはデジタルの力が必ず必要なのである。ただ、デジタルはベースなのであって、目的ではないことを忘れてはいけない。

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