シリーズ#14 コトラーのリテール4.0を斬る

大胆な提携、統合がこれからのキーポイント

今日は9つ目の原則「エクスポネンシャルであれ」について考える。
このエクスポネンシャルというのは、これまでテクノロジーが1の次が2、2の次が3……と人間の経験則や直感に基づいてリニア(直線的)に成長していくと思われていたことに反し、1の次は2、2の次が、4の次が8という風に急速に成長していくことを表す。
この考えはシリコンバレーで急成長を続けてきた、アマゾン、グーグル、アップル、フェイスブック、Uberなどの企業が急激に成長したことを受けて、今までの伝統的な企業のような堅実な成長では今のデジタル時代にはついていけないことを意味している。

小売業でもアマゾンがその代表例の企業であるが、これからの企業はテクノロジーとサービスと製品の最適ミックスをどう消費者に提供できるかが問われている。
そのための取り組みをこれまでのように、全て自社で開発して、完結させるのは無理な時代になっているのだ。他の企業との取り組みを加速させることでしか、今の消費者を満足させることはできないと本書では説いている。
これらの提携にはこれまでのような自社物流システムをヤマト運輸に任せるなどのアウトソーシングから、レストランが近距離の宅配サービスのみに特化した企業と組むことで、これまでにできなかったお弁当のデリバリーを実現するなど様々な提携を行うことが大事である。

今のコロナショックは、大胆な企業提携やイノベーションが求められている。
先日、百貨店のお中元がスタートしたというニュースを見ていたが、店頭での混雑緩和とオンライン受注の強化というこれまでの路線からジャンプしているとは思えない取り組みに感じた。もっとこれまでの固定概念に囚われない取り組みが必要であろう。

例えば今、必要なのは各百貨店のお中元の商品が比較検討できるサイト(exホテル選びのトリバゴ)が顧客にはありがたいのではないだろうか。各百貨店でのお中元の商品は、価格、配送サービスなどではあまり差別化ができていない。商品でも売れ筋のビール、ドリンク、素麺などはほぼ同じである。だから、各百貨店は何とか顧客を囲い込むことに必死になる。他の百貨店と組むなどとは全く考えられない。しかし、よく考えれば、お中元における百貨店の強敵はもはや他の百貨店ではなく、アマゾン、楽天、ジャパネットタカタなのではないだろうか。今はふるさと納税もライバルであろう。
私ならアマゾンなどと組んで、お中元だけでなくEコマース戦略そのものを改革するだろう。

そう考えると、本書でも取り上げているが、ライバル同士がタッグを組むことで新しいマーケットの開拓にも乗り出せるのではないか。全ての百貨店のお中元商品を見比べて、そしてワンクリックで買えるサイトがあれば、これまでの消費者とは違うマーケットの開拓になりそうだ。

またこの原則では、小売業におけるオープンイノベーションについての重要性も述べられている。
前述のお中元商戦でもそうだが、大手小売業は全て対前年比で予算を立てて、恐らく10%前後のプラスを目標に戦略を立てる。このやり方では決してイノベーションは起きない。
イノベーションを起こすには、前年の3倍売るためにどうするかを考えることをしなくてはいけない。そのためにはこれまでの考えを捨てて、新しい視点を取り入れることが大切だが、なかなかそれができない。大企業になればなるほど、自社の中で若手を起用してプロジェクトで考えようとする。

ここで、危険なのは若手=新しい発想の持ち主と考えることである。若手を集めても、彼らが伸び伸びと新しい発想を生み出せる環境を用意し、失敗を許す雰囲気を経営層が持たなければいけない。が、現実はその逆であり、すぐに結果を求めすぎるのが一般的だ。
本書でも出てくるリーンスタートアップについて、別の機会に述べることにするが、なかなか参考書通りには行かないのが現実だ。

私は小売業に必要なのは若手のプロジェクトチームではなく、異世代混合によるプロジェクトではないかと感じる。
コンサルタントを採用するのもいいが、結局は表面的なケースになることが私の経験からも多かった。
それよりも、社内でいろんな部署の世代の異なる人材を集めて、ファシリテーターを使いながら、これまでの戦略を見直すことは一つの方法になる。この時に重要なのはファシリテーターの力量であろう。

今、私が参加している、異世代交流会(ジェネリス)でもファシリテーターの重要性を感じている。一つのテーマ、プロジェクトをどういろんな人の声を集めながらも、一つの方向に持っていくのかはもっとも難しい。
またメンバーをどう選定するかも大事なところだ。異世代になると、どうしてもシニアは若手を上から目線で説教的に話してしまう。若手の自由な発想をぶった切ってしまう固定概念の塊のような人は排除しないといけない。
こういうことは他社との新規事業の共同開発でも同じことをよく経験した。

どちらにしても、コロナショックで時代は10年かかる改革を10ヶ月で進めないといけない状況だ。
今、必要なのは、これまでの固定概念をぶっ壊す力とそれを全く新しいビジネスモデルで作り上げる柔らかい頭脳である。時間はあまりないのだ。

私の友人の経営する飲食店では、すでに新しい取り組みを進めている。他のレストランと共同でテーマを作り、他のお店をラリー形式で回ってもらう取り組みだ。これは顧客にも新しい体験になる。同じテーマをどうそれぞれのレストランが料理するのかは楽しみである。またお店には他店の馴染み客が新規顧客になる可能性大だ。そして対取引先には共同仕入れによるバイイングパワーを高めて、仕入れコストを下げれる。まさに三方よしの戦略だ。
しかし、これもリテール4.0から見ると、少し物足りない。
なぜなら、デジタルの力が生かされていない。この顧客をいかにコミュニティ化し、その中からいろんな次のアイデアを集め、そして、そのパワーで新しい参加レストランを増やすことに繋がるのである。
デジタル、特にスマホの力なしには持続可能性の高い企画はありえないだろう。
近いうちに飲食店4.0を提案したいと思っているところだ。

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