シリーズ#05 コトラーのリテール4.0を読み解く

UX,ユーザーエクスペリエンス、顧客体験って、どれも新しい言葉だけど、みんな同じ。
所詮、顧客第一主義の言い換えに過ぎない

今日は日本オムニチャネル協会という所の無料ウエビナー(ZOOMを使ったセミナー)に参加した。元セブンイレブンCTOの鈴木さんが主催している協会だそうだ。コロナの後、これからの小売業はどう生きればいいのかを論議するものであった。
Facebookで集客を行い、ZOOMを使い1200名近くの聴衆が参加した。
最終的にはこの協会への参加を募るものであったが、無料としてはとても有意義であった。

私の妻がコンサルティング会社を5年ほど前に立ち上げて、クライアント募集のためのセミナーを頻繁に開いた時の経験を聞いたことがある。無料セミナーに来る人の大半はシニア世代でこういうセミナーで時間を潰している人が多かったと。彼女はそういう人をセミナーおじさんと呼んでいた。だから無料セミナーは絶対にしないほうが良いと私に警鐘を鳴らしていた。セミナー開催のために会議室を借り、その募集の為のチラシを印刷し、郵送、メールでこれまでの会社関係の人に送ったりするなど相当の費用がかかる。しかし、その集められる人員は会議室の規模(100名以下)が限界である。
しかし、今日のセミナーでは会議室は必要なく、チラシの印刷も要らない。コストはZOOMへの登録費用とFacebookでの広告だけである。それで1200名の潜在顧客を集めた。
時代は本当に変わったと感じる。
またゲストスピーカーも全員リモート出演であり、コストがかからない。今回はそこそこ有名な方ばかりだったので、1200名を超える聴衆が集まったように、うまく著名人をゲストで参加してもらえれば、Facebookで集めるフックになる。
これが、今のマーケティングだなと。
でも冷静に見ると、やってることの本質はな何も変わらない。そこがマーケティングの面白い所である。

このセミナーの中での論議で印象に残ったのは、コロナ前から課題になっていることが、今回のコロナで一気に吹き出したということであった。つまり、あまり課題は変わっていないと言うことだ。
オムニチャネルと言いながらも、マルチチャネルにしかなっておらず、ユーザーエクスペリエンスが十分でない小売業が苦しんでいると。
そして、デジタルと言うものはこれからは電気と同じようなものになる。電気がない世界を誰も今は想像しないように、今後はデジタルがインフラになり、その時に小売ではオンライン、オフラインとかを分けて考えること自体がナンセンスになるだろうと言うことであった。
で、大事なのはいかにお客様の目線に立って、顧客体験をいかにストレスなく満足していただけるようにするかだと。

これって、別にコロナの前でも10年前でも同じ話だと感じないだろうか?
本質はいかに、顧客の声を聞き、顧客を裏切らず、すぐに対応し、顧客の期待をいかに超えるものを提供するかである。

私が若い時に感銘を受けた本がある。ウオルマートの創業者、サムウオルトンが書いた「Made in America」である。
その中に彼はこう書いている。
Exceed your customer’s expectations. If you do, they’ll come back over and over. Give them what they want – and a little more.
訳:あなたのお客様の期待を超えることをしなさい。そうすれば、お客様はまた来てくださる、そしてその時に彼らの欲しいものを提供するのだ、そうすれもっと来てくれるようになる

で商売の基本は何も変わっていない。ただそのやり方、データ収集、分析が違うだけである。やはりセミナーを聞いていて、現場の感覚をなくすとダメだと感じた。
ともすると、コンサルタントは現場と言っても、現場の社員とデータに目が行きがちだ。実際に現場で顧客の声を聴く時間は取っていない。
これからのコンサルタントは現場で実際に声を聞くことも大事ではないだろうか。顧客アンケートを読んで、現場に指示を出しているのは小売のリーダーではない。
大事なのは顧客の生の声を聞くことだ。なじみの販売員や社員の所に頻繁に通い、忖度された声で満足している役員をこれまで多く見てきた。

セミナーでもリアルとネットの融合について論議があった。だが、これもコロナ前からの議題である。何も目新しいことではない。顧客の生活はコロナで変わる。どこまで変わるかはまだわからない。しかしコロナともに、感染を正しく恐れながらも、楽しく生活する為に、何がストレスに なっているのか、それを突き止めて、それを改善することが企業の役割であろう。
前回取り上げた、ZOOMなどのリモート会議が生活スタイルを大きく変えることは間違いない。そして、それによって増える需要と減るものがある。
こういうことを丹念に調べて行くことが、小売のマーケティングである。


私は1995年の阪神大震災の時、大丸梅田店の営業企画部門に勤務していた。神戸店はほぼ倒壊に近い被害を受けたが、幸い梅田店は大きな被害はなく、すぐに営業を続けた。
その時に思い出されるのが、実際に自分の足で現地を調査した経験だ。震災後1週間で電車は芦屋駅までは開通した。それで、芦屋駅から徒歩で三宮の神戸店までを目指しながら、その途中の小売店舗では何が売られているのかを実地調査した。これは梅田店に多くの被災者の方が買い物に来られていたからだが、実際にお店へのご要望だけでなく、今後何が必要なのかを調べるためであった。

今コロナでは、百貨店は不要不急の店となっているが、当時の梅田店には毎朝、尼崎方面から歩いて梅田店に来られ、パン、水、生活用品を求める方が大勢いらっしゃった。日々、復旧に合わせて、刻々と変わるニーズ、ウオンツに対応することが求められた。
同じことが2011年の東日本大震災でも経験した。この時は店長としての役割であったが、本当にいろんなことを学んだ。不要不急の店でも、ないといけないと感じたのはこの時だ。初めて東北新幹線が復旧し、福島から買い物に来られたお客様は東京の百貨店で買い物をする喜びを本当に喜んでおられた。福島という過酷な現実から離れて、百貨店というハレの空間での買い物ができるというのがどれほどその人の精神的な癒しになるのかということを感じた。百貨店にもまだまだ役割はあると思った瞬間だ。

さて、このように顧客の声を聞くことの大切さは同じであるが、やはりデータの量は凄まじい勢いで増えているのである。実際に百貨店でも昔からPOSを導入して、データを集めてきたが、うまく活用できていない。
ここに大きな問題があったし、今もその呪縛から逃げれていない。
データは石油と同じだと、リテール4.0では説いている。
確かに原油はそのままでは何も使えない。それを精製して石油という形にしないと活用できないのである。
データもそうだ。目的に合わせて、データを収集し、分析して活用する。それが大事だ。
しかし、これまではそうとは違ったように思える。システム会社からの提案や米国からの事例を紹介されて、こんなことができる、こんなデータがわかるということが先になってきたのではないか。
つまり、原油を何の目的かを明確にしないまま、精製してきたのである。
データはこれからは生活の基本になるだろう。コロナではデータをうまく活用した台湾、韓国が封じ込めに成功している。


小売業の置かれている環境では、オンライン企業はそもそもデータをベースに事業モデルができており、詳細なデータが取れる。しかしそれが店舗となるとうまく統合ができていない。
店舗主体の小売では中途半端なデータしか取れていない。特に店舗型小売では、何がどれだけ売れたかを調べるためにデータを使い出したのだ。オンラインではもともと、誰が、何を、いつ、どんなタイミングで、いくら買ったかまでを把握できるのである。

データをどう使うかについてはさらに深く掘り下げるべきだが、今、ここで大事なことは、何のためにデータを集めるのかを明確にしないまま、システムだけを作ってはいけない。
いわゆる、システム屋さんに暴走させない組織づくりでもある。

大事なのはあくまでも中心はお客さまに喜んでいただくために何が必要なのか、何が足りないのかをきちんと理解することだ。サムウオルトンが生きていたら、どう言うんだろう??


“シリーズ#05 コトラーのリテール4.0を読み解く” への1件の返信

  1. 昨夜は、ありがとう。
    非常に勉強になり、おぼろげながらヒントも得れたような気がします。
    また、セッション頼みます。
    早く、大阪来てや😅
    待ってます。

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