シリーズ#09 コトラーのリテール4.0を斬る

売らんかなの姿勢ではお客様はついてこない

今日はp99にある10の原則の4つ目である。「誠実であれ」について考えてみる。
本書では「誠実であれ」とは「ビジネス上の接点を持つ人に対しては、それが顧客、協力者、納入業者であろうと、誰とでも相互の信頼関係を結び、育て、維持していくこと」と説いている。
つまり、信頼を得ることで企業は支持されるのであり、それには相当のコストと覚悟が必要なのだと説いている。それは顧客だけでなく、従業員、取引先にも同じことが言える。
若いころ、私がよく聞いた話では、百貨店などの大型小売店では従業員も勤務が終われば、一人のお客様である。よって業績が苦しいからといって、すぐに店の従業員を削減するのはなかなかできないと。1人の従業員を解雇すると、その背後にいる家族、親戚など20人のお客様を同時に失うことになると。
恐らく今、地方の苦しい百貨店ではこういう呪縛に苦しんでいるのであろう。大きな固定費である従業員の削減をして、テナント化しようにも、それをすると顧客自体が失くなってしまう。小さいマーケットである地方では、顧客をどう引き留めるのかが大切な課題である。
しかし、もはや人気のない業態にはお客様は来ないのであって、自らが業態転換やビジネスモデル転換をせずには自滅するだけである。
顧客、従業員、取引先に支持されるだけのビジネスモデルをどう変革するかが今問われている。今のコロナで飲食店の中でも頑張っているところは業態転換を目指している。それには、顧客の目線で常に何が必要で、何が不必要なのかを見極めているからだ。
人間、これまでやってきたことを辞めるのは本当に難しい。しかし、戦略とは何をやらないかを決めることである。
それが年を重ねるごとに難しくなる。だから老舗企業は変革できないのである。


またこの原則ではカスタマーロイヤリティをいかに企業は顧客から勝ち取るのかについても言及している。
これまでの売り上げに応じて、ポイントカードの発行でポイントを与えることで、再び買ってもらえることは何もロイヤリティにはならないと。確かにそうだ。私もいくつものポイントカードを使い分けており、特にコンビニエンスストアではすべてのカードを持っている。家電量販店でも同じである。しかし、企業側はその顧客データを集めて、いかにも自分の固定客のように分析しているのが現状だが、なかなか売上に繋がる分析、対策が打てていない。
そして、企業はこのポイント経費でみんな苦しんでいる。販促費が売り上げの10%前後の小売業界で、5%前後のポイント経費を捻出しながら、他の販促を打つことは厳しくなってきているのだ。
なのに、このポイントで顧客のロイヤリティを獲得してるとはとても言えないのである。この現実に全ての小売業は苦しんでいるといっても良いだろう。

しかし、アマゾンはアマゾンプライムクラブ会員に対して、年会費はとるが、それをもろともしない価値を顧客に与えている。それがなんでも無料配達サービスであり、プライム映画の鑑賞権利などである。この本でもIBMの調査だと、顧客の74%は送料無料で商品を受け取れるなら、これまでに一度も買い物をしたことない小売業者から購入するといっているらしい。
だから、楽天の三木谷氏は送料無料にあれだけこだわるのだ。一方で百貨店といえば、WEB販売でも最近送料を大幅に上げている。

ポイントではもう顧客の心を掴むことはできないのははっきりしている。そしてアマゾンのようなわかりやすい送料無料、すぐにお届けサービスは顧客の心を掴むのである。
また本書で紹介されているナイキやレゴのような企業は売上には直接繋がらないが、顧客の心を掴む、イベントやコンテストを開催して、そのブランド自体の価値を上げている。

私はこのページを読みながら、思いだしたことがある。昔、マーケティングで教わった言葉だ。売らんかなのサービスはいけないと。
これはこういうことだ。町のメガネ屋さんで無料でレンズの洗浄サービスをやりますと看板を出してもなかなか、お客様は飛びつかない。お客さんはこう考える。きっと、メガネを洗浄したら、傷があるとか、フレームに悪いところがあるとか探して、メガネを売りつけようとしていると。これを売らんかなサービスという。
しかし、このサービスを宝石店でやったらどうだろう?奥さんが品定めしているときに、旦那さんのメガネを洗浄するサービスだ。旦那さんは退屈だし、ちょうどメガネを綺麗にしてもらえるならありがたいと。それで機嫌がよくなり、思わず高い宝石を買ってあげたりするかもしれない。でもこの、洗浄サービスは直接売らんかなと思わせはしないのである。

損して徳取れという諺があるが、この考え方が誠実であれの真理ではないか。
結局、商売の真髄は何も変わってはいないのである。
今一度、小売業は自分たちのやっていることを見直してみるべきだろう。損して得取れになっているだろうかと。
売上、収益にばかり目がいって、肝心の顧客満足をないがしろにはしていないだろうか。
アマゾンの送料無料サービス自体はどう見ても赤字であろう。まさに損して得取れだ。

それに追随しているのがヨドバシカメラだ。私は最近、ヨドバシカメラの通販を利用する機会が増えた。アマゾンよりも品揃えが豊富とはいえないが、家電製品では強みがあり、特に修理についてはヨドバシの方が絶対的な安心感がある。それでいて、洗剤も文具も本も買える。そして送料は無料だ。この競争はどうなるかわからないが、このコロナでヨドバシの方が魅力的に感じるようになったのは私だけではないような気がする。

この観点からすると、百貨店、ショッピングセンター、駅ビルにはチャンスが少ないと言える。しかし、やり方はある。でもそれには勇気がいる。
ヒントは顧客体験である。マスではなく、限られた顧客に絞って、徹底的に顧客体験を提供することでロイヤリティは獲得できる。ポイントでは不可能だ。


“シリーズ#09 コトラーのリテール4.0を斬る” への1件の返信

  1. 正にその通りです。最後の4行をいかに社員が理解して実行し続けられるか、精進します。ありがとうございました。

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